万城目学著『八月の御所グラウンド』。
第170回の今回の直木賞。河崎秋子著『ともぐい』と同時に受賞した。
前々回は京極夏彦さん、前回は浅田次郎さん、桐野夏生さん、三浦しをんさんの選評を紹介した。
今回は、林真理子さん、角田光代さんの選評を載せる。宮部みゆきさんの選評は『八月の御所グラウンド』についてあまり触れていないので割愛。
林真理子……そして私がもうひとつ強く推したのは、万城目学さんの『八月の御所グラウンド』であった。最初は学生たちの青春小説と思いきや、途中から違う様相を見せる。ひとりふたりと、過去の世界から野球のメンバーが集まってくるのである。日常の中に、ふわりとさりげなく非日常を入れていく技は、ベテランならではの技だとうなった。教授の言う、
「(メンバーは)心配するな、いつも、なぜか揃う。これまでもずっとそうだった」
という言葉が、温かく読者の心を満たす。
しかし、冒頭の短編は不要だったと思う。
角田光代……『八月の御所グラウンド』の、死者が登場するという設定は新しくないし、読んでいても驚かないが、その驚きのなさが何より魅力的な小説である。具合のいい力の抜き加減が、京都ならそういうことがありそうだと思わせる現実味を作っている。表題作は、かつて野球を愛した人たちが、野球をやるためだけにあらわれる、というシンプルな設定なのに、登場人物たちがありありと生き、読み手を小説内に引き入れて、早朝のグラウンドのにおいと京都の暑さを体感させる。トトロのエピソードも妙に心に残る。
とまあ、以上これまで直木賞の選評を見てきたが、皆さんそれぞれが独自の読み取りをしていることを痛感。上手い文章を書きたいと思ったら、当たり前のことだけど、上手いとされる文章をたくさん読むに限ると得心した。
文芸誌は安くて質のいいものを提供してくれる。文芸誌の価値はとりもなおさずそこにあるのだと思う。これまでは読む暇がなくて隅から隅まで読んでなかったけど、これからは光浦靖子さんのエッセイまでしっかり目を通すことにしよう。
【きょうの一枚】庭の甘夏。
庭の甘夏がたわわに実ってます。
密集しているところから小さい実を摘み取った。そうしたら、枝に残っているやつが大きくなった。
これ、お兄ちゃんがまだ小さかった頃よくチャンバラの餌食になっていた。けど、そのお兄ちゃんも今はバスケに明け暮れる高校2年生。甘夏の実には見向きもしなくなった。
時期が来れば、甘夏の果肉を削いで皮を器にし、果肉を絞ったわさび醤油で鯵のなめろうを食す。今はその楽しみのためだけに植えてある。
【書】「織」ショク・おる(No.1,697)
糸と、〓(ショク。織から糸のパーツを取り除いた形。印をつける意→飾)とで、糸模様をおり出す意、ひいて機を「おる」意を表す。転じて、組み立てる意に用いる。(『旺文社漢字典第二版』ディジタル版)
【ディジタル画】『坊つちやん』その56(No.1,137)
貫名海屋の書。臨書したけど、立派な字じゃないですか。坊つちやんは、何を根拠に下手な字だと決めつけたのだろう。
【昭和の風景】『東海道中膝栗毛』(No.417)
明治の錦絵。
輪郭を描くのに黒と赤の二色あって、最初どっちにするか迷った。迷った末、和服の箇所を赤にしてみた。江戸の浮世絵だったら黒の線を使ったと思う。
【タイムラプス】令和6年2月29日(木)7:09〜8:40の伊豆長岡の空。22秒。
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