夕立や突貫警察新庁舎（あ）

　小笠原近海で発生した熱帯低気圧が、台風8号に発展し、伊豆半島を横切った。
　通常なら、すわ台風直撃と身構えるが、今回はさほどの脅威を抱かなかった。雨台風なら大したことあるめえと読んだ。そうしたら、その読み通り、大した被害をもたらさらずに伊豆半島を通過した。
　雨漏りはなかった。雨戸も閉めなかった。飛ばされて危険なものも庭に放置したままにしていた。要するに、全てが台風が来る以前のままの状態だったが、台風は何事もなかったかのように伊豆半島に上陸し通り過ぎていった。
　風雨がいくらか落ち着いた頃、防災アプリで市の３カ所に避難所が設置されたことを知った。
　アプリにはハザードマップが示されていて、今すぐにでも避難すべき箇所、まだそれほどでもない箇所と色分けられていた。わが地区は危険を示す色域に入っていなかったため、何もアクションを起こさなかった。でも、その時は他の地区で既に被害が起こっていた可能性は拭えない。
　ことほどかように、まだ目に見ない被害を想定して行動するのは相当に難しい。これから起こるだろう被害をいくら並べても、目の前の風景は日常と何ら変わらないのだから、それで納得して腰を上げる人はまずいないと見た方がいい。
　自然災害というのは、大概そうして起こる。あの、伊豆山の土石流被害だって、一体誰が予想したろう。予想できたら、とっとと避難したろうに、目の前の風景が普段と何ら変わることがないから、まさかそんなことが起こるとは誰にも予想できなかった。もしあの時避難していたらというのは、ことが起こった後で付け足した災害報告なのであって予防でも何でもない。
　この地区は高台に開発された別荘地という性格上、狩野川が氾濫しても平気な高さに家屋が建っている。だから洪水に巻き込まれる心配はない。代わりに、土砂崩れによる被害が心配だ。
　だけど、土砂がどれほどの水分を含んでいるかは素人目には判らない。気象庁は「土壌雨量指数」というのを出しているが、だからといってそれと自然災害との相関を理解掌握する住民はまずいない。要するに、避難すべきタイミングが判らない。
　市の防災無線などで避難を勧告しても、これでは誰も動かないだろう。被害が目に見えない段階で住み慣れた家屋を手放すのは相当の決断力が要る。何となれば、これまでの生活全てを一瞬にして無きものにする覚悟を伴うのだから。それだけの覚悟を瞬時にできる人はまずいない。

【今日の一枚】図書館隣の警察署新庁舎建設現場。

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　私が図書館に足繁く通っている頃は、上物はまるで見えなかったが、この頃になると鉄骨も粗方組まれ、建物らしくなってきた。来年3月には旧庁舎から、この新庁舎に引っ越すことになっているから、これからは内装突貫工事だね。
　ひと頃の地響きが図書館の窓を震わすこともなくなり、少しは閲覧室にも静寂が戻ったかしら。
　写真手前の組体操のような像が、雨雲に聳え立つクレーン車を下から支えているように見える。その妙な組み合わせに心動かされるようにシャッターを切った。そう思うのは、きっとオイラだけなんだろうな。

【書】「信宿」しんしゅく（No.1,152）

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　「二晩とまること。二泊。」（『旺文社漢字典』第2版）
　「信」は、人と言(ことば)とで、人のことばにうそがない、「まこと」の意を表す。借りて「のびる」意に用いる。
　「宿」は、人が敷物につくさま。のち宀(家)を加えて、人が家の中の敷物につく意、ひいて「やどる」意を表す。
【ディジタル画】『坑夫』 34（No.592）

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　長蔵さんが話をつけてくれて、あばら屋に一晩泊まることにした。
　「自分は長蔵さんの言葉を聞くや否や、急に神経が弛(ゆる)んで、立ち切れない足を引き摺つて、第一番に戸口の方へ近寄つた。赤毛布はのそのそ這入つてくる。小僧は飛んで来た」
　みんな、歩き疲れて、今日はここで泊まりにすんべえという長蔵さんのことばを今や遅しと待っていたかのようだ。
　狭い坑内を四つん這いになって奥へと進んでいく様子。今は呑気に投宿している一行にも、やがてこのような劣悪な労働が待ち構えているのだ。
　そこには、どれほどの苦労があっただろう。日本近代の発展はこの人たちなしでは語れない。
　今回もConceptsのみで描いた。もう少しトーンを暗く落とせばよかった。