再びの春や手作りじいじ水（あ）

孫娘が唐突に犬を飼いたいと言い出した。そう言い出したわけは判っている。TikTokで柴犬がダンスする動画を見つけ、「かわいい。ねえ、じいじ、見て見て」と私に見せて、「私も、犬飼いたい」と言ったのだ。

小田原の家で飼えないことは端から判っているから、伊豆で飼ってくれれば、伊豆に来たときに犬と遊べる。とまあ、そういう魂胆だ。私は飼っても飼わなくてもどっちでもいいと思っているが、おそらくカミさんは飼っていいとは言うまい。カミさんは犬が嫌いなのだ。では猫はというと、こちらも嫌い。犬も猫もばあばが許可するはずがない。そう言うと、孫娘は渋々納得したようで、そうだよねと言いながら、でもと、まだ諦めきれないというふうに「Siri」に訊いていた。「伊豆のペットショップを教えて」。

そうすると、なんとSiriは家から歩いて数分のところのショップを言ってきた。私が知っているペットショップは田京駅近くのホームセンターが経営している店で、そこがいちばん近いと思っていた。まさか、自分が住んでいる場所と同じ地区にペットショップがあるなんて全く気づかなかった。待てよ、そんな店あったかな。

すぐ近くにペットショップがあると知った孫娘は目を輝かせて、「行ってみよう」と私を促す。「見るだけだよ」と念を押して、昼食を「大連」で摂るついでに寄ってみることにした。

Googleマップで確認したところに行くと、ピンクの外壁の家があった。その家の存在は前から知っていたが、造りがどう見ても普通の住宅で、とてもショップには見えない。

玄関のドアには張り紙があって、「呼び鈴を押しても出てこない場合は、家の隣にある別の扉を開けて中に届け物を置き、押印してください」と書いてあり、ハンコが紐でぶら下げられていた。これは宅配業者さんへ向けての張り紙だろうか。

どうか誰も出て来ませんようにと願いながら呼び鈴を押す。すると、中で人の動く気配がして、ドアが開いた。ドアを開けた人は「何の御用ですか」と私に尋ねる。仕方なしに、これこれで犬を見させてもらえると思って来ましたと告げると、「うちはペットショップじゃないんで、見るには、予約が必要なんだよね」とぶっきらぼうに言う。iPadで「Siri」はペットショップと教えてくれたが、実際にはペットショップではなかった。ショップに卸すペットを仲介しているところらしい。いずれにしろ、見るには予約が必要と言われれば、すごすご引き下がるしかない。

その足で「大連」に向かい、少し早めの昼食にする。何を食べたいかと訊くと、お兄ちゃんはチャーハンだと言い、孫娘はラーメンだと言う。お店の人が、チャーハンとラーメンのセットがありますと親切に言ってくれ、私もそのセットを頼めばよかろうと提案したが、二人は頑としてセットは嫌だと言い張る。それでやむなくそれぞれ単品で頼む。私は日替わりランチの中華丼を頼む。

「大連」を出て、下田街道を渡ったホームセンターのペットショップを覗く。2階に犬が何匹かいたが、そのうちのいちばん手前の檻に入っていた黒いやつが私を見てやたら吠える。孫娘は怖がって私の背後に隠れる。だから言わないこっちゃない。そんなんでは飼うのは無理だ諦めろと思ったが、フロアをぐるり一周して元の檻に戻った頃には、黒いやつは孫娘のかざした手をペロペロ舐めやがって、尻尾を振り愛想を振りまいている。孫娘はいよいよ可愛いと思ったようだが、私はちっとも可愛いと思わない。お兄ちゃんが腹痛を訴えたのをこれ幸いと、急ぎタクシーで家に戻ってきた。ふ〜、危なかったぜ。

【今日の一枚】2年前の梅シロップ。

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