いずぃなり

伊豆でのシニアライフ

版画家たちの青森

藤沢に戻ったら『大人の休日倶楽部』6月号が届いていた。大人の休日倶楽部に入会したのは5年前だったろうか。青森の実家を行ったり来たりするのに割引が利いて便利かなと思って会員になったのだったが、実家の母も亡くなり、家も取り壊され、今では故郷へはすっかり足が遠くなってしまった。それでも、いつかは格安乗り放題料金で東北や北海道をぶらりと回ってみたい気持ちも残っていて、年会費は今も納め続けている。冊子の案内にもあったけれど、例えば、東日本・北陸の旅が4日間乗り放題で1万7000円というのはやはり魅力的です。今年は無理だけれど、来年あたりは日をやりくりしてあっちこっち回ってみたいなあ。

それで、6月号の特集で「版画家たちの青森」という記事が載っていた。青森出身の版画家といえば、いの一番に棟方志功が挙げられるが、他に、今純三、関根準一郎、下澤木鉢郎、根市良三、佐藤米次郎、棟方末華が名を連ねていて、正直なところ、お二方を除いて他の方は今回初めてその名を知った。棟方末華という版画家も初めて知った方だが、掲載された「青森ねぶた祭」という作品の一部(右上)に見慣れた風景が彫られていて、目ははたとそこへ釘付けになってしまった。それは、四季折々に飽かず眺めた浅虫温泉の湯ノ島と裸島であった。この角度からの絵を何度描いたことだろう。小学校で初めて水彩絵の具を手にしてから中学を卒業するまで、夏休みの絵の宿題に毎年のように描いていた。そして、版画にも彫った。
棟方志功の自伝『板極道』に、川上神社(私の故郷にある小さい神社)の鳥居に字を刻む話が出てくるが、その鳥居に立って見る景色がまさにこの景色なのだ。青森駅からバスに揺られ、川上神社の下り坂に差しかかると眼下に集落の家並が見えてくる。家並は、海からの厳しい北風を避けるように一様に軒が低い。二階建の家もあるが、それは二階建というよりも一階半建と呼ぶにふさわしい格好だ。昔の家はみんなそうだった。そして、そのコールタールを塗ったトタン屋根の向こうに海が見え、海の上に湯ノ島が浮かび、隣に裸島が寄り添う。この景色を見るだけで、洟垂れ小僧だった昔の思い出が一気に噴き出してくる。同郷の寺山修司は、村境に錆びた捨て車輪を置いて「ふるさとまとめて花いちもんめ」と歌ったが、集落のはずれにある川上神社は、私にとって、あんなことこんなこと、いろいろあった故郷をまとめて眺める場所なのである。8,572歩。洟垂れの小僧潜った夏の海(あ)
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