孫遊ぶ庭に白黴年惜しむ（あ）

【今日の一枚】白いのはなんだろう。

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　庭のど真ん中に梅の木がある。孫どもがまだ小さかった頃、その枝にロープを結んでブランコを作ってやった。ロープは義兄が劇場で舞台監督をしていた時に使ったものだそうだ。座板は、私が藤沢と伊豆を行ったり来たりしている時に、辻堂海岸に流れ着いた漁具を拾ってきて当てた。
　孫たちもしばらくはそのブランコで遊んでいたのだったが、図体が大きくなってからはあまり遊ばなくなった。お兄ちゃんは部屋にこもってネットゲームに明け暮れるようになったし、そんなんでお兄ちゃんが遊び相手をしてくれなくなった孫娘も、それを機に一人でこのブランコを揺らすようになった。
　ひとり遊びの延長なのかどうか、ままごとに飽いた孫娘は、ブランコの真前にシャベルで穴を掘り出した。穴に足を突っ込んで私が転げる図を愉快に想像したらしいが、穴に足を突っ込んだのは私ではなく、息子のベッドを東京から運んだ引越業者の助っ人さんだった。ベッドに視界を塞がれて足元の穴に気づかなかったらしい。
　それからというもの、地面を平らにすべくその穴にコーヒーを濾した後のカスを捨てるようにした。孫は不満を申し出たが、私は危ないからと頑として穴埋めを譲らなかった。
　そのコーヒーの粉が積もり積もってとうとう穴をすっぽり塞ぐまでになった。で、きょう見たら、その穴のふちに白いものが見える。最初は霜かなと思ったが、昼になっても白いままなところからこれは霜じゃないと判断した。霜じゃないとすると……カビしかない。これはコーヒーの粉を撒いたところにできた白カビだった。
　穴はコーヒーの粉で埋もれてしまったので、今は別の手向山(枝垂れ紅葉)の下に粉をばら撒いている。そのうちそっちにも白いカビがはびこるだろうが、気にしない気にしない。

【書】「蚊雷」ブンライ（No.1,258）

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　「蚊が集まって立てる羽の音の形容。」（『旺文社漢字典』第2版）
　「蚊」は、虫と、音を表す文(ブン。暗い意→昏)とで、暗くなると出て飛ぶ虫、「か」の意を表す。
　「雷」は、雨と〓(ライ。田を4つ並べた形。かみなりのごろごろなる音。畾・田は省略形)とで、「かみなり」の意を表す。

【ディジタル画】『それから』八の四（No.698）

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　代助は嫂(あによめ)に工面してもらった二百円を持って平岡を訪ねるが、平岡は不在だった。妻の三千代が応対に出た。
　「代助は経済問題の裏面に潜んでゐる、夫婦の関係をあらまし推察し得た様な気がしたので、あまり多く此方から問ふのを控えた」。
　帰り際、代助は「昔の様に元気に御成んなさい」と三千代を励ます。三千代は「本当ね」と笑って答える。
　三千代の笑いは複雑だ。今更そんなことを言われても困るという気持ちと、できるならば純粋無垢だったあの頃に戻りたいという思いが交錯していたのだろう。
　代助は、独り身の無責任で昔のように元気になれと言うが、昔の元気を取り戻すには、三千代はあまりに世間の冷たい風に当たりすぎてしまったかもしれない。