小魚の泳げる川の秋出水（あ）

　雨の散歩もいいものだ。
　振込予定口座の残高が足りなそうだとケータイに知らせが届いたので、不足分の現金をコンビニのATMに入れてきた。
　今月に入っての値上げラッシュは、純粋年金生活者には手痛い仕打ちとなっている。年金の増える気配はまるでなく、せっせと溜めた蓄えは目減りする一方だ。どんどん心細くなる。ああ、長生きしても碌なことは一つもない。
　こんな日は家に籠もって読書でもしようと思うが、分厚い文芸雑誌を広げる気が起きない。雨では庭いじりもできない。空も晴れないが気も晴れない。
　で、ぶらり近所の散歩に出る。
　長靴を履いて傘を差して雨空に飛び出す。道を歩いていると、繁茂した雑木の葉が、頭につかえんばかりの高さまで垂れていることに気づく。厄介なことこの上ない。通行の邪魔だからといって勝手に伐るわけにはいかない。伐りたければ土地所有者の許可を得ないといけない。だけど、その土地所有者が誰だか判らない。許可をもらうべく連絡を取ろうにも連絡先が判らない。市に駆け込んでも、市は個人情報を理由に教えてくれない。
　ここはもと温泉付き別荘地として開発されたところで、今は温泉は配給されなくなったが、樹は主が住もうが住むまいが勝手に育って区民の日常生活を脅かすまでになっている。スズメバチが巣を作っている薮もある。
　雨の日に近所を散歩すると、至る所にそういう空き地があることに気づかされる。猪の通り道だったり、鹿が悲しげに鳴く声が聞こえたりするが、でも、そういう野趣溢れる空き地にどんな家を建てようかと想像を逞しくするのは意外と楽しい。

【今日の一枚】坂の下り切ったところを流れる濁流。

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　この濁流の脇に公民館が建っている。うちの区の公民館ではない。隣の区の公民館である。
　写真では手前の高い植え込みに隠れて建物が見えない。白い庇だけがちょこっと見えるか。もう少し左に寄って撮ったら建物の窓なども見えたかもしれない。
　この公民館はよく選挙の投票所になる。近いところでは今夏の参院選の投票所になった。
　選挙では各区の区長が選挙立会人として駆り出される。立会人席が設けられ、そこに投票が始まってから終わるまでじっと座っていなければならない。ただじっと座って投票に不正がないかどうかをチェックするのだが、舟を漕ぐわけにはいかないから、何が辛いってそれがいちばん辛い。
　昼と夜に弁当が出る。弁当は近くの仕出し弁当屋から取り寄せる。それを別の部屋で交代交代で食うのだが、そのときに会場設営に来ていた市の職員とちょっとした世間話をする。そこにこの川が登場する。
　その市職員は地元の方で、小さい頃はよくこの川でハヤを釣って遊んだりしたと話してくれた。私もかつてこの川で小さい魚が群れて泳いでいるのを見たことがある。それがハヤだったか。
　きょうはあいにくの雨で川は濁っているが、澄めばハヤの泳ぐ姿が見られたろうか。

【書】「高会(會)」こうかい（No.1,207）

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　「盛んな会合を催すこと。また、その会合。盛会。」（『旺文社漢字典』第2版）
　「高」は、たかい楼閣の形にかたどり、「たかい」意を表す。ひいて、たっとい意に用いる。
　「会(會)」は、曾(甑の原字。こしき)にふたをしたさまで、ふたの意。転じて「あう」意を表す。
【ディジタル画】『坑夫』 89（No.647）

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　初さんと「自分」は連れ立って親方の家に挨拶に行く。「初さんが外から声をかけると、窓をがらりと開けて、飯場頭が顔を出した」。
　初さんはいつの間にか消えていなくなり、飯場頭と「自分」はきょうの坑内の下見の感想などを少しやり取りしをして飯場へ引き返す。そして、皮肉・冷評・罵詈・滑稽の中で壁土のような飯を済ませる。その後、そっと飯場を抜け出して安さんに逢いに行く。「安さんが生きて働いているうちは、自分も生きて働く考へである」。