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いずぃなり

伊豆でのシニアライフ

絵の心子に教へられ濁酒

「せんせい、どうぶつえんのどうぶつで、なにがいちばんすき?」
おやつの後の「自由遊び」で1年生の女の子に訊かれた。手に自分のお絵かき帳から切り離した一枚をひらひらさせている。なになに、私に動物の絵を描いてくれるってかい?
「そうねえ、キリンかな」
「うん、わかった」
キリンと答えて、自分でも思いがけない気がした。あれっ、キリンが好きだったんだっけ? 嫌いではないけれど「いちばんすき?」と言われればそうでもないかな。でも、動物園にいる動物と言われて咄嗟に思いつくのは、キリンかゾウくらいなものですからね、私の場合。
放課後児童教室の本館には座卓タイプの長机が8卓✕2列あり、その子はいちばん後ろの8番目のテーブルに座って絵を描いていた。横には図鑑が置いてある。たぶんその図鑑を見ながら動物の絵を描いているのだろう。私がいろんな子に頼まれて図鑑を模写している姿を見て、自分もそうしているらしい。その子のそういう姿はこれまでも何度となく見ている。
私は別の子(これも1年生の女の子)に頼まれて、3番目のテーブルでヒマワリの絵を描いていた。もちろん図鑑を見て、である。本当はその子は動物の絵を描いて欲しかったらしいのだが、動物図鑑が本棚になかったので仕方なく植物図鑑にしたというふうだった。それで、これ描いてと選んだのがヒマワリだった。
植物図鑑は初めてだった。ヒマワリといえばゴッホゴッホといえばヒマワリ、てなもんで、53億円(1987年当時)の値がついたヒマワリのいったいどこがいいんだろう、絵の価値はどこにあるのかよくわからんと思いながら描いているところへ、先の動物図鑑の子が「なにがいちばんすき?」と私に声をかけたのだった。
その子は私に絵を描いてくれと頼んだことは一度もない。自分で勝手に本棚から図鑑を取り出し、自分で模写する。開いたページに紙をあてがって上からなぞるのでなく、私と同じ方法で、図鑑を横に置き、それを見ながら描く。
実はその子から、以前、青い蝶の絵をもらったことがある。昆虫図鑑を模写した絵だ。「これ、せんせいにあげる」と突然言われて絵を渡されたときは、とても驚いた。真剣に描いているなあとは見ていたが、まさか私にくれるために描いているとは思わなかった。
嬉しかった。私にプレゼントするために一所懸命に描こうとするその気持ちが何より嬉しかった。絵は、上手い下手ではない。見る人の心を揺さぶる何かがあるかないか、です。心を揺さぶるものがあるのを「よい絵」と言うのでしょう。青い蝶の絵には、確かに私の心を揺さぶる何かがありました。
「せんせい、キリンのつぎに、なにがすき?」
私がヒマワリを描き上げ、これまた別の子(1年生の男の子)に頼まれたカブトムシを描いているところへ、先ほどの子が寄って来た。キリンは難しくて描けないのかなと思って、
「う〜ん、ゾウ」
と答えた。ゾウのずんぐりむっくりした体型ならうまく紙に収まるだろうと思った。それで、ゾウの絵ができあがるかと見守っていたら、「はい、これ、あげる」と渡されたのは、最初に言ったキリンの絵だった。
長い首がいかにも窮屈そうに横置きのB5版に収まっていて、後ろ足がややもつれ加減に描かれている。なかなかユーモラスな、味のある「よい絵」です。この後ろ足のもつれが、気持ちだけ先行する今の私を象徴しているようで、心の中で思わずくふっと笑ってしまいました。(あ)

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タイムラプスは、10月17日(月)5:59〜8:10の韮山方面の空。

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