いずぃなり

伊豆でのシニアライフ

負けん気の強き幼子障子穴

久々にNHK囲碁トーナメント戦を観る。今日の対局は、黒番伊田篤史、白番依田紀基。伊田は前回の優勝者、依田九段は過去にこのトーナメント戦で三連覇したことのある実力者、そして解説が茅ヶ崎市出身の小松英樹という豪華な顔ぶれである。

私はひと頃、囲碁に凝っていたことがある。湯河原に勤めていた時期だ。当時職場には囲碁好きの仲間が十数人いて、よく泊まりで囲碁を打った。その泊まりに使った民宿は「杉の宿」といって、かつての藤沢秀行名誉棋聖が門下生を引き連れて毎年囲碁合宿を張る宿として有名だった。海に面した職場から梅林のある幕山へ向かう途中にその民宿はあった。

民宿の大広間には藤沢秀行を始めとしてたくさんの棋士の色紙が飾られてあり、そのうちの一枚に依田紀基の色紙もあった。どういう言葉が書かれてあったか今は思い出せない。しかし、独特の癖のある字で、どこか人を寄せ付けない凄みを感じさせる字だったことは今も印象として強く残っている。実際、棋風もまた、蛇が蛙を睨みつけるような凄みがあった。

対局の序盤、左上隅の攻防で、白のカケツギに黒がノゾキを打った。そのときである。白番の依田が「えっ?」という驚きの表情を見せた。普通、棋士はポーカーフェースを繕って気持ちを顔に表さない。あるいは「参ったなあ」とぼやいて見せて、心でしめしめとほくそ笑むところがある。しかし、このときの依田は違った。感情をそのまま顔に出した。いやむしろ、それが依田なのである。依田紀基は感情を隠せない人なのである。このタイミングで素人でも打たないような手を打つのか。そんな驚きのように私には見えた。そして、そのとき依田は勝ちを確信したのではなかったか。

その後、盤面は白優勢のまま終盤を迎え、結局、前回覇者の黒番伊田が投了し、白番依田が中押し勝ちを収めた。小松英樹九段の的確で分かりやすい解説も相まって、なかなか見ごたえのある対局だった。

伊豆の家にはヤフオクで手に入れた碁盤が置いてある。孫が遊びに来たときにたまに教えてやるが、陣地取りゲームだよ、黒と白と代わり番こに打って最後に陣地を広く取った方が勝ちだよと、いくら言っても石を囲って取ることしか考えない。相手の石をたくさん取ることにひたすら執心する。まあ、そのうちね、徐々に囲碁の楽しみを教えてやりますよ。とか何とか言っているうちに、じいじは下手くそだからつまんないと孫に言われてしまうかもしれないね。(あ)

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15,387歩。